春眠


    朝に弱く冷え性なのもあって、眼を覚ましたあとも大体ぐずぐずと布団のなかで縮こまっている。足先をこすりあわせながら二度寝してしまうことも多い。一人暮らしなので起きろと急かす親はいない。誰にも気兼ねすることなく好きなだけ惰眠を貪る。溶けかけたキャンディーに群がる蟻たちのように、眠りが私の意識を覆い尽くしどこか遠い巣穴へと運んでいく。地中の深い場所へ、女王蟻――もとい、女王眠りの御前へ、放り出される。彼女はとんでもなく強い顎で私を噛み砕く。私に似てせっかちなのだ。飴を舐めるのではなく噛んで食べてしまう。私の破片が彼女の足元に落ちて、ずるがしこい働き眠りたちがこっそり拾って盗み食いする。やがて女王も働き眠りたちも眠りにつき、砕かれた私は彼らの胃袋で溶けながら夢になる。最後の夢が消化されて私は眼を覚ます。足先をこすりあわせ、くしゃみをする。春先の風は強く窓をたたいている。桜を散らせた風だった。

  業務連絡業務連絡冷たい肉をすぐに集めて(花も)

すれ違いの猫たち

短歌・詩・散文など