停電 停電が多い街。日本を発つ前にチェックしたブログやTwitterにはどれも似たような注意書きが記されていた。生水は飲まないようにすること。停電に備えてモバイルバッテリーは持参すること。ブゥゥンという低い唸りのあとに電気が消え、私たちは「停電だ」「だね」と短く言葉を交わした。とっくに日は落ちていた。暗闇に包まれた部屋で私たちは慌てることなく元の姿勢に戻った。背中合わせに寝ころび、それぞれお互いのスマホをいじった。狭いベッドだった。初めての海外旅行で安いホテルを選んだせいだ。でもいちばんの原因は予約時に2人部屋ではなく1人部屋を取ってしまったことだった。ホテルのフロントに訴えてみたがほかに空きはなく、1人部屋...10Apr2018弱く美しく短歌
春眠 朝に弱く冷え性なのもあって、眼を覚ましたあとも大体ぐずぐずと布団のなかで縮こまっている。足先をこすりあわせながら二度寝してしまうことも多い。一人暮らしなので起きろと急かす親はいない。誰にも気兼ねすることなく好きなだけ惰眠を貪る。溶けかけたキャンディーに群がる蟻たちのように、眠りが私の意識を覆い尽くしどこか遠い巣穴へと運んでいく。地中の深い場所へ、女王蟻――もとい、女王眠りの御前へ、放り出される。彼女はとんでもなく強い顎で私を噛み砕く。私に似てせっかちなのだ。飴を舐めるのではなく噛んで食べてしまう。私の破片が彼女の足元に落ちて、ずるがしこい働き眠りたちがこっそり拾って盗み食いする。やがて女王も働き眠りたちも...09Apr2018弱く美しく短歌