イカロスの羽、燃えて、 生徒会室で魔女はナイフを握りしめた。刃渡りは短く、片側は大きく波打っている。柄の色はオレンジ。テーブルに置かれたトンガリ帽子のリボンと同じ、さらにいえば彼女がナイフを突き立てようとしている「それ」とほぼ同じ色だった。「また振られたの?」 わたしが声をかけると魔女は顔を上げた。半泣きだった。訊くまでもなく、最初から――この部屋に彼女が入ってきたときから――わかっていた。わたしと彼女は中学時代からの友人で、こんな姿は何度も見てきた。魔女の仮装をした姿ではなく失恋した彼女の姿を。 何度も。「『そんなつもりじゃなかった』って……」彼女はナイフを握り直し、目の前のハロウィンかぼちゃに突き立てた。「じゃあ、どんなつもりでキスしたの!?」 罪な...31Oct2018百合50音百合小説
アンドロイドと台風 あるいは最後のオクトーバーフェスト フォリナ・E・オクトーバーと出会ったのは台風が関東に上陸する前日、風が吹き荒れる土曜日の午後だった。悪天候にも関わらず池袋のビアガーデンは盛況でドイツ人の楽隊が陽気な音楽を奏でていた。友人に約束をすっぽかされた私は黒ビールを飲み、白ソーセージに舌鼓を打った。屋上の手摺には「オクトーバーフェスト」ののぼりがいくつも並べられ、風に煽られていた。その脇に彼女はいた。ビールを片手に、はためくのぼりのひとつを指で押さえていた。真剣な表情だった。まるで自分が指を離せば飛んで行ってしまうとでも思いこんでいるみたいだった。 なぜ彼女に声をかけたのかはいまでもわからない。酔っていたせいかもしれない。なにしてるんですかと私は訊ねた。「え、」驚いたよう...31Oct2018百合50音百合小説