あたし以外に乗客は誰もいない。平日の午後、がら空きの列車に乗って鳥籠を捨てに行く。鳥を中に入れたことのない籠だった。いつか鳥を飼おうと思って先に籠だけ買っていたのだが、結局、無駄になってしまった。あたしは結婚し引っ越しする。お腹には子供がいた。しばらく鳥を飼うことはないだろう。鳥籠を撫でる。お腹にいる子供を撫でているような気がした。思わず手を離す。電車が揺れた。駅に着いたらしい。ドアが開くと同時に鳥籠が座席から落ち、外へと転がった。中腰を浮かせてあたしは、でも、動かなかった。ドアが閉まる。
 降りた客も乗ってきた客もいなかった。列車のなかにはあたしひとりだけだった。あたしはお腹をゆっくりとやさしく撫でた。名前をつけてあげる。あなたの名前。眼を閉じて浮かぶのは雲ひとつない空の青だった。その青にあたしはきっと鳥を探していた。


 鳥籠を捨てたの君に捨てられる前に捨てたの だから羽根だけ

すれ違いの猫たち

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