春:ハーモニカひなたへと飛び出た黒いセーターは少年に似た風だったのでスマートフォンの忘れ物ですスライドショーに雪が流れています「虫歯?」「違う」「なに?」「ヘンゼルとグレーテル」「お菓子の家か」「むっちゃ食べてる」教室の机にあった彫刻の傷と1年付き合いましたハーモニカ吹くとき僕は眼を閉じた眼を開いたら春が来るんだ幸せな記憶はすぐに消えるけど覚えてるんだ河馬の歯磨き15Feb2017短歌
むにゅむにゅセグメンテーション 弱いことは、罪ですか。 病院のベッドで明け方を待っていた。点滴が落ちる。逆さまに取り付けられた透明なパックは決まったときに決まった量だけの液体を送り込んでくる。送られる側の事情なんかお構いなしだ。何があろうと冷静沈着で慌てることがない。時間と同じだった。針を肘のあたりに刺され、問答無用に無色の時間を流し込まれている。 仕切りを隔てていびきが聞こえた。佐野さんだ――40代で、3人の子供がいる。いちばん上の子供は私と同い年だった。中学2年生。何度か見かけたことがある。佐野さんと同じ眼のかたちをした、優しそうな男の子。でも毎日お見舞いに来るのは子供たちではなく若い女性だった。茶色の髪を後ろで束ねた美しい人で、グレーのチェスターコートを着...14Feb2017散文
蝋燭と向日葵タフネスというタイトルの本を抱き通勤ラッシュの電車で眠る落ちていくそれは枯葉じゃありません枯葉の色の雀の落下他人には期待しないと言うくせに裏切られたと言う君が好き薄切りのレモンをつつくストローがないからすこし大人の静寂冬服の女子高生は細長く唾垂らしおりバスが来るまで向日葵の残照めいて蝋燭は揺らめきもせず燃えていました遅延証明書あるいは今朝死んだ誰かの自殺証明を出す水道のお水をあげようからっぽの花瓶となった記念に今日も10Feb2017短歌