彷徨う車吹き荒れる春の嵐の記憶だけ詰めたトランク後部座席に歩道にも車道にも花 アクセル踏んで生きようと、した待つことはつながれること街灯は瞬いて点くでも届かないひかり、あれは桜、桜のひかり、花の罠、呼ばれたら終わる、ひかり夜桜が照らし出してた湖も月も消え去り彷徨う車14Apr2018短歌連作短歌
誕生日のリマインダー 眠りすぎたあとのように指はしびれていて、スマートフォンを押せなかった。消し忘れたリマインダー。ちいさな音だった。みじかく、鈴に似た音で鳴った。液晶画面に表示されたリマインダーの内容を目にしたとたん、指がしびれたように動かなくなってしまった。――莉奈と誕生日デート。 末尾にはスケジュールを入力したときのテンションそのままに絵文字が踊っている。たった2か月前なのに、遠い。ゲルマン民族の大移動くらい遠く感じる。日本史Bあるいは世界史A。第一問。莉奈の乱が起こった原因とその政治的・歴史的影響について述べなさい。《800字程度》 ちくたくちくたく。 くずれたパンケーキをぼんやりと口に運んで、わたしは空白の解答欄を...14Apr2018百合小説
停電 停電が多い街。日本を発つ前にチェックしたブログやTwitterにはどれも似たような注意書きが記されていた。生水は飲まないようにすること。停電に備えてモバイルバッテリーは持参すること。ブゥゥンという低い唸りのあとに電気が消え、私たちは「停電だ」「だね」と短く言葉を交わした。とっくに日は落ちていた。暗闇に包まれた部屋で私たちは慌てることなく元の姿勢に戻った。背中合わせに寝ころび、それぞれお互いのスマホをいじった。狭いベッドだった。初めての海外旅行で安いホテルを選んだせいだ。でもいちばんの原因は予約時に2人部屋ではなく1人部屋を取ってしまったことだった。ホテルのフロントに訴えてみたがほかに空きはなく、1人部屋...10Apr2018弱く美しく短歌
春眠 朝に弱く冷え性なのもあって、眼を覚ましたあとも大体ぐずぐずと布団のなかで縮こまっている。足先をこすりあわせながら二度寝してしまうことも多い。一人暮らしなので起きろと急かす親はいない。誰にも気兼ねすることなく好きなだけ惰眠を貪る。溶けかけたキャンディーに群がる蟻たちのように、眠りが私の意識を覆い尽くしどこか遠い巣穴へと運んでいく。地中の深い場所へ、女王蟻――もとい、女王眠りの御前へ、放り出される。彼女はとんでもなく強い顎で私を噛み砕く。私に似てせっかちなのだ。飴を舐めるのではなく噛んで食べてしまう。私の破片が彼女の足元に落ちて、ずるがしこい働き眠りたちがこっそり拾って盗み食いする。やがて女王も働き眠りたちも...09Apr2018弱く美しく短歌